■マコの傷跡■

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chapter 48



~ chapter 48 “子供” ~ 

私はこれから、どんどん成長できる・・・!
PCの学校に通う準備を始めた頃、私は妊娠している事に気がついた。
結婚式が済んで、まだ2ヶ月だった。旦那の子供であるのは間違いない。
本来なら喜ばしい事なのだろう。けれど私はちっとも嬉しくなかった。
ただただ怖かった。ちゃんと避妊はしていたのに、どうして・・・。
これからようやく自分で歩いて行こうと思ったのに、
まだ自分1人で立っているだけでもやっとなのに、私が子供を育てるなんて出来る訳がない。
嫌だ。まだ嫌だ。まだ今の私には無理だ。まだこれからなのに、全てが台無しになってしまう。

「産みたくない。」旦那にそう言った時、彼はすごく悲しそうだった。
当然、「産んで欲しい」と言われた。
でも絶対に嫌だ。今の私では子供を大事にしてあげられない。
大事にしてあげられないどころか私が壊れてしまうと思った。ものすごく怖かった。
子育て中の母親の精神状態は子供にものすごく影響するものだ。
私なんかに育てられたら子供が可愛そうだと思った。

それから2ヶ月間、毎晩旦那と話し合った。
どっちにしても、絶対に後悔しない道を選ばなければいけない、と旦那が言った。
「後悔しない為にお互いしっかり納得が出来るまで話し合おう。」
まだやりたい事があるのも、自信がないのもわかる、でももう出来てるんだから。
1人で育てる訳じゃない、俺も、親も居るし、皆で育てればなんとかなる・・・。
「どうしても、産む方向では考えられないの?」旦那にたくさんの言葉で毎日説得された。
でも嫌だ。どうしても嫌だ。まだ無理だ、まだ今の私では子育ては出来ない。
“でも、もう育ち始めているのに・・・!!” 私は間違っているだろうか。後で後悔するんだろうか。

知り合いには話せないからチャットルームで知らない人に相談したりもした。
「産んだら絶対可愛いから大丈夫だよ、せっかく出来た命なんだから産んであげないと・・・。」
ほとんどの人にそう言われた。「子供が欲しくて欲しくて、でも出来ない人だっているのに」
それを言われると辛かった。でも、それは私の事じゃない・・・。
でもこの先、もしもそうなったら?その時になって後悔しても遅い。いつかは欲しい。
今回の事で子供が持てない身体になったら旦那を失うかもしれない。
どうしよう・・・。でも自信がない。怖い。誰だって自信なんてないのかもしれないけど。
でもそうじゃない。子供を産むのならもっとちゃんと、心の準備が出来てから、大喜びで迎えてあげたい。
待って待って、待ちわびて産みたい。そうやって大事に育てて行きたい。
欲しくなかったなんて気持ちが欠片でもある状態で産むのは嫌だった。
そんな気持ちで産むなんて、そんなの、産まれてくる子供に失礼だと思った。
旦那に「だったら、いつなら平気になるの?ずっと作らないの?」と言われた。
いつになるかなんてわからない・・・。でもとにかく今は無理なの・・・。

この頃の私は人として何か欠落している部分があったと思う。
命の重さのようなものがあんまりわからないのだった。
まだ身近に居る大事な人が亡くなった事がなく、体感した事がないからわからないだけかもしれないけれど
誰かが死んでしまって悲しい、という事が頭では理解できるのに感情として沸いて来なかったのだ。
庭先で産まれた小さな野良の子猫をしばらく面倒見たが手遅れで死んでしまった時も泣けなかった。
祖母が泣くなった時もただ母が泣いていたから、つられて泣いただけだ。
本当に悲しくないのか、悲しいという感情が重過ぎて耐えられないから
自分で感じなくしてしまっているのか、どっちかもわからなかった。
悲しい事が起きたのだと、頭で理解はするけれど、心は揺れない・・・。

話し合いの最後にこの話をした時、旦那は納得したようだった。
その話から何をどう納得してくれたのかはいまだにわからないけれど。
「そうか・・・。そういう事なら、なんとなく理解出来る気がする。
それにそこまで、子供を産んで育てて行く事に真剣に向き合いたいと思っているのなら
今の真琴じゃそれをするのはきっと無理なんだろう。わかった。今回は諦めよう。」
旦那にとって、ものすごい決心だったろうと思う。本当に申し訳なかったと今でも思う。
きっとすごく苦しかったと思うのに、それでも受け入れてくれたのが有難かった。

そうして私は私達夫婦に初めて出来た子供を産まなかった。




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